このブログでは、工作の記録、実験の結果や考察が散逸しないように専ら備忘録に使ってます。プログラムのソースや設計データ等は載せていませんが、詳しく知りたい方がおりましたらコメントいただければ対応します。

所有する主な測定器はこちらです。


2011年8月16日火曜日

電磁解析シミュレータによるRFアンプ設計(4)

今回は、実際にSonnet上で基板パターンを作り、素子を配置して挙動を調べていきます。

まず、使用する高周波トランジスタBFS505だけを基板に乗せ、入出力ラインとアースをとって解析してみます。結果は、前回のネットリスト分析の結果とほとんど変わらないようです。
それでは、コンデンサやインダクタなどの整合素子をいれてみます。
まず入力側には並列コンデンサ5pFをいれ、直列インダクタはミアンダ線路で作りました。そして、出力側には直列にチップインダクタ24nHを入れます。
回路パターンやチップ部品の寄生容量があるので、ネットリストの分析結果よりも若干定数は変更してあります。同様に、ミアンダ線路も長さを最適化してあります。

その結果、ネットリスト分析とほとんど同じチャートが得られています。
次は、トランジスタに電流を供給するバイアス回路です。この設計は結構重要です。

このシリーズの最初のほうで、トランジスタ増幅回路の固定バイアスの定数を決めました。これはトランジスタを安定的に作動させるための抵抗値です。

このアンプ回路が比較的低い周波数で動作する回路なら、ここの周波数特性については、あまり気にしなくてもよいのです。しかし、今回の回路は高周波回路です。電流を供給する回路が共振を起こさないように、また信号の回り込みに注意しなければなりません。

このため、DC(つまり電源)は素通し、逆に高周波のノイズはブロックするようにします。インピーダンスでいえば、信号の入出力点からみたバイアス回路は高周波域でインピーダンスが無限大であり、バイアス回路側から見たトランジスタ回路は高周波域でインピーダンスがゼロであるのが理想的です。

これを実現するには、インダクタとコンデンサで共振回路をつくり、電源ラインに入れて高周波をトラップしてあげればいいでしょう。トラップしたい周波数と一致するような自己共振周波数を持つインダクタとコンデンサの組み合わせを作ればよいです。これもSonnetで作ります。

まず0.9GHz付近に自己共振をもつLとCの値を調べます。おおよそ、インダクタが560nH、コンデンサが20pFとなります。
これを直列に接続して、共振周波数を調べます。1GHz付近の減衰は-50dB程度ですが、高周波側が-30dBと、あと一歩です。
同様に、3.2GHz付近に自己共振を持つ51nHと2pFを組み合わせてみます。
そして、この2つのLC共振を組み合わせたものがこれです。

この回路をトランジスタのバイアス回路とした場合、トランジスタ側から見たインピーダンスはほぼ無限大です。これでバイアス回路はOKでしょう。


次回は、最終的にアンプ回路をすべて組み立てていきます。

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2011年8月15日月曜日

電磁解析シミュレータによるRFアンプ設計(3)

今回はインピーダンス・マッチング(実践編)です。

まずBFS505の特性をスミスチャートで見てみましょう。今回は1GHzのアンプですが、0.1GHzから1.6GHzまでをスキャンしてみました。
これを見ると、入力側の反射を示すS11は、レジスタンス50Ωでキャパシタンス(容量性コンダクタンスが強い)です。
また、出力側のS22は、レジスタンス100Ωで同じくキャパシタンスです。
なので、入力側は直列インダクタで整合できそうです。出力側は、入力側の整合でインピーダンスは下がるので、直列インダクタンスだけで大丈夫かな。

こんな当たりをつけて、整合素子を挿入したらインピーダンス曲線がどのように動くか、おおまかに予想しながらsonnetのネットリスト分析を行います。

実際には、入力に直列インダクタと並列コンデンサも挿入し、出力側には直列インダクタを挿入して、次のようなチャートが得られました。1GHzまで、できるだけフラットな特性にしたので、S21は0.6GHzから1GHzまで18dB程度、アイソレーションは1GHzでS11、S22とも-12dB程度とれています。

下図は、ネットリストの分析結果を踏まえた整合回路です。
次に、この回路をどのような素子で組んでいくか考えます。まず、基板はガラスエポキシFR-4の1.6mm厚を使います。裏面はベタアースで、表面にストリップラインの伝送路を作ります。
ストリップラインの特性インピーダンスを50Ωとした場合の、線幅を求めます。これもsonnetの電磁解析で線幅を変化させながら周波数特性をみると、h=2.8mmとなります。

次に素子ですが、チップ部品は寄生容量があるので、注意して使わないといけません。
整合用のインダクタL1は7nHなので、高インピーダンス回路のミアンダ線路にします。L2は25nHと比較的高いインダクタンスなので、スパイラル線路かチップインダクタを使用します。

次回は整合回路をsonnetで作り解析してみます。

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2011年8月14日日曜日

電磁解析シミュレータによるRFアンプ設計(2)

 前回は、1GHzのRFアンプ製作の1回目として、高周波トランジスタのバイアス回路を設計してみました。

 VCC=8V、RB=129kΩ、RC=396Ω、コレクタ電圧VCE=6Vのとき、コレクタ電流 IC=5mAとなります。

今回はインピーダンス・マッチング(基礎編)です。

まず高周波領域では、電流や電圧を測定して回路の状態を把握することが難しいということがあります。例えば、高周波回路に電圧プローブを当てると、それだけで回路の状態が変化してしまいます。
では何を指標にすればよいかというと「電力」になります。 電力の入出力の関係を表すパラメータをSパラメータといい、回路の端子間に出入りする波の位相と振幅の関係を示しています。また、Sパラメータはマトリクスで表現され、2端子回路では、2行2列の行列になります。

回路をブラックボックスとしたとき、入力をポート1、出力をポート2とします。このときのSパラメータは次のような意味を持っています。
  1. S11 ポート1の反射係数、ポート1に入力した信号が反射してくる割合
  2. S22 ポート2の反射係数、ポート2から出力しようとした信号が出ていけない割合
  3. S21 ポート1に入力した信号が増幅してポート2から出てくる割合
  4. S12 ポート2から入った信号がポート1から出てくる割合
Sパラメータではこのようなことが分かります。
では、今回使用するトランジスタBFS505Sパラメータを見てみましょう。
いまでは、多くのメーカーが自社チップのSパラメータを提供していますので、このような解析もできるようになりました。

エミッタ接地、VCE=6V、 IC=5mAの時のSパラメータのうち、800MHzから1400MHzを抜粋してみました。
=============================================================
! Filename:       BFS505K.S2P                                Version:   4.0
! Philips part #: BFS505                                     Date: Jun 1994
! Bias condition: Vce=6V, Ic=5mA
!
#  MHz  S  MA  R  50
! Freq       S11            S21            S12            S22     !GUM [dB]
  800    .411  -65.1   5.887  110.7    .072   65.1    .646  -24.8 !    18.5
  900    .362  -68.3   5.388  106.6    .078   65.4    .624  -24.7 !    17.4
 1000    .319  -71.4   4.945  103.0    .083   65.5    .604  -24.4 !    16.3
 1200    .246  -79.1   4.279   97.2    .093   65.9    .565  -23.9 !    14.6
 1400    .204  -88.1   3.811   92.7    .105   66.9    .538  -24.4 !    13.3
=============================================================

これから、BFS505の1GHzでの挙動は、次のようなことが分かります。
  1. S11=(0.319)2=0.102 インピーダンスが整合しなければ、入力の10%が反射されます。
  2. S22=(0.604)2=0.365 インピーダンスが整合しなければ、増幅した信号の36.5%が出力されません。
  3. S21=(4.945)2=24.45 入力された信号は24.45倍(13.9dB)に増幅されます。
  4. S12=(0.083)2=0.00069 出力側から入った信号は、0.00069倍(-21.6dB)に減衰して入力側から出てきます。
このように、入出力のインピーダンスを整合させないと、目的の性能を得られないことがわかります。

では、回路のインピーダンスを合わせるために簡単な方法はないでしょうか。よくつかわれるのがスミスチャートと呼ばれる図形です。
インピーダンスは、R±Xと表現されますが、Rは抵抗成分(レジスタンス)で、Xはリアクタンス成分です。
このチャートでは、円の中心を通る横軸がレジスタンス成分を示し、左端を起点とした円周上にリアクタンス成分の虚数軸となっています。右端から放射状に延びている線は、リアクタンス成分の等価線を示しています。
チャートの上側が、+で誘導性リアクタンスを示し、チャートの下側が-で容量性リアクタンスを示しています。そして、チャートの中心点か基準点Z0となり、通常は50±j0 つまり、インピーダンス50Ωを示します。
これを使うと何がうれしいかというと、回路のインピーダンスは、このチャートのどこかにプロットされ、その点を中心に移動させるように、コイルやコンデンサを組み合わせた整合回路を作ってあげれば、整合完了となるのが目でわかるということです。
どのように点を動かしていけばよいか、簡単な例を示します。
ある回路のインピーダンスが50+j50としたら、その点は上のグラフの点0に位置します。この点に接する円は等リアクタンス円といい、斜めに伸びる線を等レジスタンス線といいます。
さて、この回路に直列にコイルを入れると、誘導性リアクタンス成分が増加するため、インピーダンスは等リアクタンス円にそってA方向に移動します。
では、直列にコンデンサを入れると、今度は容量性リアクタンス成分が増加するため、インピーダンスは等リアクタンス円にそってB方向に移動します。
直列に抵抗を入れるとどうなるでしょうか?等レジスタンス線にそってC方向に移動します。しかし、実際のマッチングでは抵抗を入れると損失となるので、抵抗をいれることはしません。
では、回路に並列に素子をいれたらどうなるでしょうか?この場合にはサセプタンス成分とコンダクタンス成分を考えないといけません。
この場合のチャートは、スミスチャートの左右反転させたアドミタンスチャートを使います。
先ほどと同様に、ある回路のインピーダンスが50+j50としたら、その点は上のグラフの点1に位置します。この点に接する赤い円を等コンダクタンス円といい、斜めに伸びる線を等サセプタンス線といいます。
さて、この回路に並列にコイルを入れると、誘導性コンダクタンス成分が増加するため、インピーダンスは等コンダクタンス円にそってE方向に移動します。
では、直列にコンデンサを入れると、今度は容量性コンダクタンス成分が増加するため、インピーダンスは等コンダクタンス円にそってF方向に移動します。
直列に抵抗を入れるとどうなるでしょうか?等サセプタンス線にそってG方向に移動します。しかし、実際のマッチングでは抵抗を入れると損失となるので、抵抗をいれることはしません。

このように、コイルやコンデンサ素子を直列や並列に入れることで、チャート上を移動させることができます。

では、今度は実例で回路を整合させてみましょう。
この例は、16+j15というインピーダンスを50Ωに整合させる例です。

16+j15はチャートの点0に位置しています。この回路に直列にコンデンサを挿入します。容量性リアクタンスが増加するため、インピーダンスは等リアクタンス円に沿って点1まで移動します。点1のインピーダンスは16-j23.4です。このときのコンデンサ容量は4.15pFでした。

次に、点1に接する等コンダクタンス円を赤い円で示します。ちょうどこの円はチャート中心点を通ります。したがって、並列にコイルを挿入し、等コンダクタンス円に沿って中心に移動させればよいわけです。この移動に必要なコイルの容量は5.5nHとなりました。
Cs=4.15pF, Lp=5.5nH

というわけで、上のような回路を挿入することでインピーダンスが50Ωに整合できました。

次回は実際にBFS505の入出力の整合をしてみます。



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電磁解析シミュレータによるRFアンプ設計(1)

前回使ったAWRの回路シミュレータは、SPICEのようなキルヒホッフの法則の複素行列演算を行う節点解析法に、2次元積層電磁解析を組み合わせたものです。
あくまでも回路シミュレータなので、回路の要素は理想状態におかれ、要素同士が隣接したときの影響や、パターンのそばにGNDランドを挿入したらどのような挙動を示すのかなどは計算されません。(もちろん最初から電磁解析モードで回路を描けば可能ですが)

回路図に含まれていない影響(ランド挿入や部品間の隣接の影響)を知りたい場合は、電磁解析シミュレータを使います。
ですが、そもそも、この影響を解析する前に、回路の定数(抵抗やコンデンサの値など)を決めないといけません。つまり、
  1. データシートなどから、おおまかな回路設計を行う。

  2. 回路シミュレータで、設計する回路の構築、解析を行い、回路定数を決定する。

  3. 電磁解析(EM)シミュレータで、実際の基板のパターンを解析する。

このように段階を経て設計することになります。

電磁解析シミュレータはマクスウェル方程式を使って空間の電磁解析を行うシミュレータです。有限要素法やモーメント法、TLM法などが手法として知られています。

今回使う電磁解析シミュレータは、モーメント法を使った三次元プレーナー電磁界シミュレータで、Sonnetというものです。このソフトのいいところは、Liteバージョン(規模の制限はあるけどフル機能)がダウンロードできるのと、日本の代理店のページが充実していて、日本語のドキュメントが多数あることです。(有料セミナーに参加すると、Liteバージョンのすこし上のライセンスがもらえるらしい)
さらに、ネットリスト分析といういわゆる回路分析も可能なので、これ一つで回路解析から電磁解析まで可能です。

さっそく、使ってみましょう。

まず、「お題」ですが、MMICのようにインピーダンス整合しているチップ(入出力が50Ωに調節されている)では、いささかつまんないので、高周波用のトランジスタを使って、1GHzのRFアンプを作ることにします。

部品箱を漁ってみると、BFS505という石が出てきました。こいつは9GHzまで使える広帯域のトランジスタです。まあ、実験なのでこれにしましょう。

RFアンプといっても、中身はトランジスタによる増幅回路なので、適切なバイアス回路を設計しなければなりません。一般的なバイアス回路は次図のようなものです。
ですが、RF増幅回路では下図のようなエミッタを直接接地する、固定バイアス回路がよくつかわれます。高周波帯域では、トランジスタの動作安定化のためのバイパスコンデンサCEやバイアス抵抗REがうまく働かなくなるためです。
この固定バイアス回路の欠点は電流増幅率hFEが変化すると動作点が変わってしまうことにあります。今回はこの回路を使用するので、hFEの挙動を調べておく必要があります。
BFS505のデータシートをみると、コレクタ電流に対して電流増幅率hFEはほとんど変化しない特性をもっているようです。これなら大丈夫そうです。
このトランジスタで最大利得を得たい場合には、コレクタ電流ICとトランシジョン周波数FTのグラフでピーク手前に設計するのがよさそうです。BFS505の場合は、IC=5mAとなりました。
データシートから、コレクタ電流 IC = 5 mAの時、電流増幅率hFEは120なので、IB=IC/hFE からIB=0.042mAとなります。

次に、抵抗RCを求めます。まずコレクタ-エミッタ間電圧(エミッタ接地なので、コレクタ電圧と同じです)VCE を適当に決めます。ここではデータシート記載と同じく6Vとします。次に、電源電圧VCCを8Vとします。
抵抗RCを通る電流はコレクタ電流とベース電流の和なので、5.042mAです。コレクタ電位が6Vなので、電源電圧8Vの差2Vとなるように抵抗RCを求めると、

VCC-6 = RC x (IC+IB)、 よって 8-6=RC x 5.042、 RC=396Ω

次に、ベース抵抗RBを求めます。コレクタ電圧VCEとベース-エミッタ間電圧VCEの差が抵抗RBの電圧降下に等しくなります。一般的なシリコン系トランジスタのベース-エミッタ間電圧VBEは0.6Vなので、
VCE - VBE = IB x RB、よって 6 - 0.6=0.042xRB、RB=129kΩとなります。


以上でバイアス回路は完了です。ここまでは普通のトランジスタの回路設計と同じですが、今回のお題は高周波を増幅する回路です。そのため、入出力のインピーダンスを合わせないとまともに動いてくれません。ここからシミュレータが活躍します。

次回は、インピーダンス・マッチングについてです。


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2011年8月9日火曜日

回路シミュレータ

AWR Microwave Designという回路シミュレータがあります。回路図を入力して解析したり、
マイクロストリップラインのシミュレーションをしたり、いろいろ使えるツールです。
そこで、この前作ったアンプ回路を理想的な形で入力してみました。

使用するデバイスのSパラメータファイルを読み込んで部品として使える機能があるので、さっそくベンダーのホームページからデータをダウンロードして登録しました。
どのようなマイクロストリップラインを使っているのかは、回路図の中で示します。ここでは、比誘電率4.6、Coplanarで下層面ベタグランドと指定しました。

登録されている部品から立体的に回路を作ってくれるので、出来上がりを見てチェックしたり、たとえば電子密度分布などのシミュレーション結果を見ることもできます。


回路の利得を、入力周波数を50MHzから2500MHzまでスイープしてグラフにしてみました。いい感じのフラットな性能がえられるように、マイクロストリップラインの幅とかを調整しました。アースビアの位置で特性が変化するのも見れるので、この回路シミュレータできっちり作りこんで基板を作れば、完成度が上がるでしょうね。


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