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2011年8月14日日曜日

電磁解析シミュレータによるRFアンプ設計(1)

前回使ったAWRの回路シミュレータは、SPICEのようなキルヒホッフの法則の複素行列演算を行う節点解析法に、2次元積層電磁解析を組み合わせたものです。
あくまでも回路シミュレータなので、回路の要素は理想状態におかれ、要素同士が隣接したときの影響や、パターンのそばにGNDランドを挿入したらどのような挙動を示すのかなどは計算されません。(もちろん最初から電磁解析モードで回路を描けば可能ですが)

回路図に含まれていない影響(ランド挿入や部品間の隣接の影響)を知りたい場合は、電磁解析シミュレータを使います。
ですが、そもそも、この影響を解析する前に、回路の定数(抵抗やコンデンサの値など)を決めないといけません。つまり、
  1. データシートなどから、おおまかな回路設計を行う。

  2. 回路シミュレータで、設計する回路の構築、解析を行い、回路定数を決定する。

  3. 電磁解析(EM)シミュレータで、実際の基板のパターンを解析する。

このように段階を経て設計することになります。

電磁解析シミュレータはマクスウェル方程式を使って空間の電磁解析を行うシミュレータです。有限要素法やモーメント法、TLM法などが手法として知られています。

今回使う電磁解析シミュレータは、モーメント法を使った三次元プレーナー電磁界シミュレータで、Sonnetというものです。このソフトのいいところは、Liteバージョン(規模の制限はあるけどフル機能)がダウンロードできるのと、日本の代理店のページが充実していて、日本語のドキュメントが多数あることです。(有料セミナーに参加すると、Liteバージョンのすこし上のライセンスがもらえるらしい)
さらに、ネットリスト分析といういわゆる回路分析も可能なので、これ一つで回路解析から電磁解析まで可能です。

さっそく、使ってみましょう。

まず、「お題」ですが、MMICのようにインピーダンス整合しているチップ(入出力が50Ωに調節されている)では、いささかつまんないので、高周波用のトランジスタを使って、1GHzのRFアンプを作ることにします。

部品箱を漁ってみると、BFS505という石が出てきました。こいつは9GHzまで使える広帯域のトランジスタです。まあ、実験なのでこれにしましょう。

RFアンプといっても、中身はトランジスタによる増幅回路なので、適切なバイアス回路を設計しなければなりません。一般的なバイアス回路は次図のようなものです。
ですが、RF増幅回路では下図のようなエミッタを直接接地する、固定バイアス回路がよくつかわれます。高周波帯域では、トランジスタの動作安定化のためのバイパスコンデンサCEやバイアス抵抗REがうまく働かなくなるためです。
この固定バイアス回路の欠点は電流増幅率hFEが変化すると動作点が変わってしまうことにあります。今回はこの回路を使用するので、hFEの挙動を調べておく必要があります。
BFS505のデータシートをみると、コレクタ電流に対して電流増幅率hFEはほとんど変化しない特性をもっているようです。これなら大丈夫そうです。
このトランジスタで最大利得を得たい場合には、コレクタ電流ICとトランシジョン周波数FTのグラフでピーク手前に設計するのがよさそうです。BFS505の場合は、IC=5mAとなりました。
データシートから、コレクタ電流 IC = 5 mAの時、電流増幅率hFEは120なので、IB=IC/hFE からIB=0.042mAとなります。

次に、抵抗RCを求めます。まずコレクタ-エミッタ間電圧(エミッタ接地なので、コレクタ電圧と同じです)VCE を適当に決めます。ここではデータシート記載と同じく6Vとします。次に、電源電圧VCCを8Vとします。
抵抗RCを通る電流はコレクタ電流とベース電流の和なので、5.042mAです。コレクタ電位が6Vなので、電源電圧8Vの差2Vとなるように抵抗RCを求めると、

VCC-6 = RC x (IC+IB)、 よって 8-6=RC x 5.042、 RC=396Ω

次に、ベース抵抗RBを求めます。コレクタ電圧VCEとベース-エミッタ間電圧VCEの差が抵抗RBの電圧降下に等しくなります。一般的なシリコン系トランジスタのベース-エミッタ間電圧VBEは0.6Vなので、
VCE - VBE = IB x RB、よって 6 - 0.6=0.042xRB、RB=129kΩとなります。


以上でバイアス回路は完了です。ここまでは普通のトランジスタの回路設計と同じですが、今回のお題は高周波を増幅する回路です。そのため、入出力のインピーダンスを合わせないとまともに動いてくれません。ここからシミュレータが活躍します。

次回は、インピーダンス・マッチングについてです。


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