前回は、エミッタ接地のトランジスタ増幅回路に負帰還を入れた回路の概略を説明しましたが、今回は抵抗値を実際に求めてみます。
この回路ですが、直流信号と交流信号では有効となる素子が違ってきます。まず交流信号の場合ですが、バイパスコンデンサC
1~C
3に交流信号が流れるために、抵抗R
C、R
E、R
1が働かなくなり、次の回路と等価となります。回路に寄与しない部分は薄消ししてあります。
まず、帰還抵抗R
FとR
Sの関係式と、
RF×RS = N×2500
ただし、入出力インピーダンスを50Ωとする。
利得Gと帰還抵抗R
FとR
Sの関係式
G = (RF/50 - 1)2
この2つの式から、G = (N×50/R
S - 1)
2 が導けます。
利得Gと帰還抵抗R
FとR
Sそれぞれの関係がどうなっているのかグラフに図示してみたいと思います。
まず、帰還抵抗R
SとゲインGとのグラフですが、トランスの巻線比を1対1,2,4の3種類でプロットしてみました。帰還抵抗R
SはエミッタとGNDの間にある抵抗ですが、そもそもトランジスタの内部にはエミッタ内部抵抗reがあり、この値以下には下がりません。
通常のトランジスタの場合では、内部抵抗値reとエミッタ電流I
Eの間にre=0.026/I
Eという関係があり、 I
Eを5mAとすると5.2Ωとなります。したがって、帰還抵抗R
Sはreを含めて10Ω程度が下限でしょう。つまり、巻線比が1ならゲインは16dBが上限となります。さらに帰還抵抗R
FとゲインGとのグラフもプロットします。
今回の設計では、
設計ゲインを12dBとします。
また、使用するトランスですが、GHz帯まで使える巻線比が1より大きいトランスは種類が少なく、ちょうど手持ちにあったトランスは巻線比が1:1のものだったので、
今回はN=1とします。
利得Gと帰還抵抗R
Sの関係式から、R
S(エミッタ内部抵抗reを含む)は11.2Ωとなります。エミッタ内部抵抗reは5.2Ωより、帰還抵抗R
Sは6Ωとなります。
同様に帰還抵抗R
Fは223Ωと求められます。
次に、直流でのバイアス抵抗を求めます。直流では、パイパスコンデンサC
1~C
3は無いものとみなせます。また、トランスのインダクタンス成分も無視できます。したがってエミッタ抵抗はR
S+R
E、コレクタ抵抗はR
Cとなります。したがって次の図のような回路となります。回路に寄与しない部分は薄消ししてあります。
まず、
BFS505は、コレクタ電流Icが5mAの時、トランシジョン周波数が9GHzまで伸びます。したがって、コレクタ電流Icは
5mAとします。この時の増幅率hfeは120であるので、ベース電流I
BはI
B=I
C/h
FE からI
B=0.042mAとなります。
エミッタ電圧V
Eを
1Vと適当に決めます。エミッタに流れる電流はコレクタ電流とベース電流の和なので、5.042mAです。これがエミッタ抵抗R
S+R
Eを通るので、V
E=1.0=(R
S+R
E) x 5.042mA から、(R
S+R
E)は198Ωとなります。先ほど、エミッタ抵抗R
S(エミッタ抵抗reを含む)は11.2Ωと求められたので、エミッタ抵抗R
Eは186.8Ωとなります。
抵抗R
Cを求めます。ここでコレクタ-エミッタ間電圧V
CEをデータシート記載と同じく
6Vとします。すると、コレクタ電圧V
Cはエミッタ電圧V
E+コレクタ-エミッタ間電圧V
CEから、7Vとなります。
電源電圧V
CCを
12Vとすれば、電源とコレクタ電圧V
Cの差を抵抗R
Cで落とせばよいので、
V
CC- 7 = R
C x (I
C+I
B)、 よって 12-7=R
C x 5.042、 R
C=990Ω
最後にベース電圧を決める分圧抵抗R
1、R
2を求めます。一般的なシリコン系トランジスタのベース-エミッタ間電圧V
BEは0.6Vなので、ベース電圧V
B=V
E+V
BE=1.6Vとなります。抵抗(R
1+R
F)とR
2でコレクタ電圧V
Cを分圧しているので、V
B = R
2/(R
1+R
F+R
2) x V
Cとなり、R
2を1.2kΩとすればR
1は3.8kΩとなります。
以上、設定ゲイン12dB、電源電圧12Vのときの抵抗値が以下のように求まりました。
R
C=990Ω(430Ωと560Ωの直列接続)
R
1=3.8kΩ
R
2=1.2kΩ
R
F=220Ω
R
S=6Ω
R
E=187Ω(330Ωと430Ωの並列接続)
次回は、バイパスコンデンサを選定し、実際にシミュレーションにかけて挙動を見てみます。
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